起業家物語
- 起業家No.002
シツモニスト
野末 岳宏 様
Q.まずは主な事業内容を教えてください
A.一言で言うと教育サービス業です。企業に対しては研修や採用コンサルタントを、学生に対しては就活を中心としたキャリア支援を行っています。例えば、面接の代行業務や個別セミナーの開催などもこの中に含まれます。
Q.起業する前はどのようなお仕事をされていましたか
A.IT企業の人事で採用と教育の仕事をしていました。そちらで23年ほど働いていましたが、他にも給与計算や総務の仕事など幅広い業務をしてきました。
Q.長い間お勤めされていた会社をやめて起業しようと思ったきっかけは何ですか
A.そもそも自分は会社勤めに向いてないなと感じていました(笑)。あまり人に命令されるのが好きではないタイプなので、自分のやりたいことをやれるのが一番いいなと思い続けていました。そんな中、会社に早期退職制度が導入され、これはチャンスと利用しました。おかげで、起業準備期間と会社を設立する上での資金も得られました。
Q.以前働かれていた会社では人事部を始め総務部など幅広い経験をされていたとのことですが、なぜその中で「教育」関係のお仕事の事業をしようと思われたのですか
A.昔、学校の先生になりたいと思っていたのですが、教育の担当をしていた時に社内講師として営業研修やコミュニケーション研修に登壇したことで、再びその思いが蘇ったからかもしれません。また、採用を担当していた時に、自己肯定感が低く自分の可能性を自ら押し込めている学生が多いと感じ、自分がなんとかしなきゃと感じたことも理由のひとつです。
Q.起業というとかなりリスクがあるように思えるのですが、どのようにして「はじめの一歩」を踏み出したのですか
A.「起業しても5年後にその会社が存在しているかわからない」とよく言いますが、たとえ既存の会社に勤めていたとしても、同じことが言えると思うんです。実際に私が勤めていた会社も、この5年間で状況がどんどん変わってきています。私は会社勤めでも起業家でも、そんな風にリスクは変わらないんじゃないかと思っていたので、特に躊躇することなく踏み出すことができました。
Q.起業というと何でも一人でやらなければならないというイメージで時間が足りなくなりそうですが、、、
A.私の場合、自分には絶対にできないなと思った仕事は、無理をせず最初から人に任せてしまいます。会計は税理士にお願いしちゃうとかね。友人が多いおかげで割安で依頼出来たりするので、時間対効果を考えて最終的に任せるかどうか決めています。そんな感じで、なるべく自分の仕事に集中できるように調整しています。
Q.起業前で苦労されたことはありますか
A.苦労というのは特になかったのですが、ただ起業前の準備として何か学ぼうと思い、発問力を鍛えました。コーチングやカウンセリングのスキルが必要な今の仕事では、自分の質問の質を上げることが、相手の考えを引き出すための重要なポイントになるんです。これに磨きをかけるにはどうしたらいいかを考えて、色んな研修に参加してみたり、本を読んでみたりしました。
Q.では起業後に苦労されていることは何ですか
A.苦労したというか、失敗したなぁと思うことはありますね。起業家支援をしている知人がいるのですが、私が会社を辞めた際にその彼が「二十数年間仕事をしてきたんだから、1年間は何もやるな」と言ったんです。なのでその通り素直に遊んでたんです(笑)。まあ、実際には在職時から繋がりのある他社人事の人達と就職支援のボランティア活動をしながら、仕事の役に立つことを身につけていきました。会社員時代は24時間拘束されているような感じで休む間もなく、なかなか落ち着いてものを見る機会がなかったので、そうして一度しっかりと休むことで色々なものが見えてきた気がします。ただ、やはりボランティアなのでお金はもらえません。また、人事仲間との付き合いもあるし、繋がりもあるので自分は大丈夫だ!と思っていたのが落とし穴でした。仲間であるが故に、お金が絡む仕事の話にはほとんどならず、その後の売り上げに大きな影響が出ました。その意味で、本来なら今までになかったネットワークを作るべきであったのに、作らずに1年間を過ごしてしまったことは失敗だったと感じています。
Q.失敗を乗り越えるために努力したことはありますか
A.1年間とにかく遊んでいたので(笑)、2年目からは依頼の声がかかったら、どんな仕事でもとにかくやってみようと思いました。その中で、僕のできることも見つけられるし、相手が求めてくるものも見えてくるので、それからの1年間はとにかく「何かできることはないですか」と名刺を渡し続けました。そうしていただいた仕事はほとんど全部やってみました。そのうちに認めてくれる人たちがぼちぼち出はじめ、その中から芽が出て生計を立てられるまでになりました。
Q.起業してよかったと思う瞬間は何ですか
A.2つあって、まずは時間を自分の中でコントロールできるようになったことです。分かりやすい事象で言えば、満員電車に乗らなくて済むようになった、これに尽きますね(笑)。自分で考えた時間割りで行動できるようになったというのは、いいなと思います。もう一つは子どもとの時間が増えたと言うことです。これは私にとってはすごく大きな変化でした。オフィスに行って仕事をしなくても、家で資料を集めたり、作成した方が効率的なので家にいることが多くなりました。子どもとの会話が増えることによって、子どもとの距離もより近くなった気がします。ビジネスマンの時は、夜、子どもたちが寝静まった頃に帰り、朝は子どもたちよりも先に会社へ行くというのが当たり前だったので、これはすごくよかったと感じています。
Q.仕事をする上で何を一番大切にしていますか
A.講座や他の仕事でも「目の前にいる人のために今できることは何だろう?」ということをいつも考えています。僕が尊敬する講師の言葉を借りると「矢印が相手に向いているか?」をすごく大切にしています。例えば今、目の前にすごく悩んでいる人がいるとしたら、「その人がどうすれば幸せに向かうのか」を考えてアプローチしていけるかどうかということです。「この人にアドバイスをして、うまくいかなかったらまずいな」と思いながら話しかけるのは「自分に矢印が向いている」状態。自分に矢印を向けて話していると、相手に必ず悟られます。これでは相手に響かないんです。「この人は自分のことを考えてくれている」と感じない限り、相手の心も体も動きません。私の仕事は『人間は進化する生き物である』ことを証明することだと思っています。日々の成長、つまり心と体に変化がみられることこそがその証なので、「相手のことをちゃんと想って、見て話せているか」これはすごく大事だと思います。
Q.最後にこれから起業しようと思っている人に一言お願いします。
A.「お金は大事だよ」っていうことですね(笑)。「お金なんかどうでもよくて、まずは志です」とお金儲けをすることを嫌がる人が多いですが、そう言う前に、まずはお金について勉強をしてみてください。お金の意味や仕組みについて十分に理解することでお金を稼ぐことへの抵抗感は少なくなります。その上で「自分が今持っているものと、世の中に求められているもの」を見つけ、事業を組み立てていくことで、お金を得ると共に、志を全うしていくことができると思います。
「楽ではない」ことを「楽しく」するのが起業だと私は感じています。それを実現するための日々の工夫が事業や仕事であり、その成果として「見えるものがお金」、「見えずに感じるものが感謝の気持ち」なんだと思います。
その両方を意識して起業されることをお勧めします。